CDI logo  トップページプロジェクトファイル ⊃ 「生活財生態学 III」 (最終更新 2004年4月22日)

生活財生態学 III
大都市・地方都市・農村・漁村の生活財全調査

商品科学研究所+CDI

はじめに

 家庭のなかにある生活財の保有状況と家庭景観の実態を調査し、 森林生態学の手法によって研究分析する仕事は、 当研究所が開設当初から引き続いて行ってきた研究である。 その目的はよりよい生活への指針を見いだすことであり、 更にそれを定期的に実施することにより、 その時代の背景にある生活者の変化を、 ひととモノのかかわりからより具体的に指摘しようとするものである。
 「生活財生態学」の調査が始まって17年目、「生活財生態学II」の研究が行われて10年目の1992年、 私たちはここに発表する「生活財生態学 III」に取り組むことになった。
 今までは関東圏・関西圏の都市生活者を対象としてきたのに対し、 今回は新たに地方都市・農村・漁村にも手をひろげ、その地域差特性を検討することを試みた。 調査対象家庭は204、調査票記載の生活財の品目数は 4,203 品目に及び、 各品目毎に所有の有無、購入意欲、使用頻度について調査した。 さらに調査家庭の方々自身に、家の中のすべての部屋、玄関、風呂場、トイレに至るまで写真を写してもらい、 それらをもとに図像的に記録分析し、 家庭景観の特性、生活財の配置から、モノのあり方や住空間、住生活のあり方等を考察した。 また、大都市部の中には、17年前から引き続いて調査している家庭が19軒含まれており、 これらからは過去2回の資料との比較により生活財の保有、住居空間、家庭の変化等を明らかにした。
 今回の調査からも、商品の作り手側売り手側は、自ら送りだしたモノが どのような生活を作りあげるかということには十分配慮してこなかったことが明白になった。 今日ほど生活者二ーズが注目され、生きた資料が求められている時代はない。 この生活者のなまなましい実態と生活財のありのままの姿を、 よりよい生活への実現に向けて参考にしていただければと念ずる次第である。

目次

第1章 生活財生態学 III について
 調査の目的と課題、これまでの経緯
 調査の内容と方法

第11章 生活財調査1992
 生沽財の保有・購入意欲・使用頻度の状況
 家庭景観の現状

第111章 10年前との比較
 生活財保有の変化
 家庭量観の変化

第IV章 農村・漁村の生活財と家庭景観
 山梨県北巨摩の生活財と家庭衆観
 福井県下の漁村の生沽財と家庭景観

第V章 「豊かな生活」への再構築

第1章 生活財生態学 III について

調査の目的と課題、これまでの経緯

 ここで「生活財」とは商品生産以外の生活の用具のことである。  日本の一般家庭にはその生活財が何品目くらいあるのか、そしてそれはどの ように配置されているのか、同じ広さ同じ間取りの家庭では、その数や配置は 同じになるのか、より広い住居に住む家庭ではどのように異なるのか。
 一見無秩序に見える家庭における生活財の保有・配置状況にこうした秩序を 見いだそうとして、私たちは森林生態学の方法を真似ることにした。

 1975年の「生活財生態学」は、4段階の空間ステージ、すなわち同じ広 さ同じ間取りの住居に住む東京圏・大阪圏の合計140家庭の生活財の保有・ 使用・入手・配置状況を調べ、空間ステージの違いによって、生活財の保有・ 配置状況、家のなかの景色(これを私たちは「家庭景観」 と呼んだ)がどのように違っていくかを明らかにし、どうすればもっとクオリ ティーの高い生活ができるかを提案した。
 翌年、当時流行のLDK(リビング・ダイニング・キッチン)のテレビの上 に72時間連続撮影できるビデオカメラを設置して、その空間における生活財と 人間のかかわりを調べた。
 次に、生活財生態学の方法でヨーロッパと日本の生活の国際比較をすること になり、少数例ではあるが英国(ロンドン)、フランス(パリ)、ドイツ(デ ュッセルドルフ)と日本の家庭の比較を試みた。

 1982年には「生活財生態学U」と称して、世代によって生活財の保有・ 配置状況、家庭景観がどのように違っていくかを明らかにしようと、1975 年と同様の調査を行なった。この時の調査対象は東京圏・大阪圏 の合計103家庭(独身20、新婚夫婦24、長子が小学生の家庭18、長子 が中学生の家庭23、老夫婦18)であった。[実はこのなかには1975年の「 生活財生態学(T)」の調査対象が40家庭含ませてあったので、同じ家庭の生活 財群と家庭景観の7年間の変化(森林生態学でいう「遷移(サクッセッション )」)も調査することができた]。

 1984年から1987年にかけて行なった「生活財の処分と再流通」では 、家庭にあった生活財がどのような理由、どのような方法で処分されているか 、処分されたものはそのあとどのように処理あるいは再流通されているかを、 1年間のモニター調査や実態調査で明らかにするとともに、望ましいリサイク ルの社会システムを提案した。

 このたび1992年に行なった「生活財生態学V」の研究調査では 以前から気になっていた「地域による生活財保有配置状況の違いの有無」を明 らかにすることになった。地域といってもこれまでは東京圏・大阪圏しか対象 にしてこなかったし、 東京圏・大阪圏ではあまり違いがあるとも思われなかったので、東京圏・大阪 圏の家庭のほかに、東京圏の外の地方都市とその近くの農村の家庭、そして大 阪圏の外の地方都市とその近くの漁村の家庭を調査することにした。今回も前 回の東京圏・大阪圏の調査家庭の追調査を試み、それらのさらに10年間の変化 (遷移)を明らかにしたいと考えた。
 また、今回は生活財の保有・配置状況(家庭景観)だけでなく、使用頻度、 そしてはじめて購入意欲もあわせて調査することになった。そのため、のちに 紹介するように調査票はきわめて複雑・大部となり調査家庭に多大の負担をお 掛けすることになった。

2 調査の内容と方法

 「家庭にある生活財の保有・使用頻度・購入意欲の状況」の調査については 、10年前と同様、調査家庭の生活者自らかなりの時間をかけて「調査票」に回 答していただくという方法をとることにした。「調査票」は10年前のものとほ とんど同じであるが、10年前の生活財リスト(75分野・3998品目)で落とし ていた生活財と、この10年間に新しく家庭に普及した生活財を補充し、生活財 は75分野・4203品目となった。
 「調査票」は報告書巻末の「資料編」におさめられているが、全部で89ペー ジ(上綴じ・片面印刷)、7mmの分厚いもので、表紙に調査の目的・記入上の注 意を述べ、87ページのフェイスシートで家族構成、住居形態、所得、職業など の状況を尋ね88・89ページで住居の間取りを尋ねている。その間86ページには、 75分野・4203品目の生活財の絵入りのリストがあり、その生活財が家庭に 「ある」か「ない」か、まず尋ねている(どちらかに○をつける。「ある」の 欄に、有無の代わりに数量を尋ねている生活財もある)。次にその生活財の購 入意欲(○新しく買いたい・買い増したい、△今のを捨てて買い替えたい、× 買いたいとは思っていない)、さらにその生活財の使用頻度(○よく使う、使 っている、△使うこともある、×全然使わない)も尋ね、○△×で回答するよ う求めている。「調査票」はこの調査への協力に同意したかたがたに、説明会 場で直接お渡しするか郵送し、郵便で私たちあて返送してもらうという方法を とった。

 こうして集めた「調査票」の膨大なデータはコンピュータに入力され、集計 出力されたが、生活財1品目ごとの、フェイスシート事項と保有の有無保有数 ・使用頻度 購入意欲とのもっとも詳しいクロス集計表は4203ページあり 、私たちはそれを1ページずつ読んで、生活財ごとの特徴について議論をかさ ねていった。
 この調査のもうひとつのポイントは、17年前、10年前と同様、生活財の配置 状況(家庭景観)を図像的に記録し、分析することであった。17年前、10年前 は調査員が訪問し、家に上がり込んで、家中の(見えている部分を)すみから すみまでくまなく撮影したものであるが、調査員が家に上がり込むことに対す る調査家庭側の抵抗感が強いので、今回はその家庭の成員自身に、近年普及し た「レンズ付きフィルム」でみずから写真撮影をしていただいて返送していた だくという方法にした。

 東京圏と大阪圏は17年前、10年前と同様、調査地域とすることにした。「地 方」の代表には山梨県と福井県を選んだ。東京、大阪からのへだたりが適度で 、中心となる地方都市(甲府市、福井市)の人口規模が似ており、近くに適当 な農村地帯、漁村地帯もひかえていて、地方都市と農村、地方都市と漁村とい う組合せができやすい、さらにこの調査を企画していた少し前に発表されて話 題となった『国民生活白書(平成3年版)』の「地域別豊かさ総合指標」で両 県が高位をしめたことも、大都市圏と「生活の豊かさ」を対照するのに、適切 であると考えた理由ともなった。
 私たちは調査経費などの都合から、合計200家庭を調査することにし、そ れを東京圏、大阪圏、山梨県、福井県の各50家庭に分けることにした。山梨県 、福井県はさらに甲府市25、農村25、福井市25、漁村25に分けることにした。 そして各地域で、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳以上の5つの世代グ ループが同数(例えば甲府市、農村、福井市、漁村の1世代グループは5家庭 、東京圏、大阪圏は10家庭)となるよう割り当てることにした。しかし実施過 程では計画とは多少の違いが生じ、結果的には次のようなサンプル構成となっ た(表)。
 調査のデータは、ほぼ平成4年(1992年)9月〜10月のものである。

図1 調査票の例

第2章 生活財調査1992

生活財の保有・購入意欲・使用頻度の状況

1.保有の状況

(1)地域による生活財の保有特性
 生活財の平均保有数を地域別にみると、図のように山梨県の農村がモノ持ち で、逆に福井県の漁村にモノが少ないということがわかった。両者の差は39 3品目、平均保有数を1とすると0.21の差である。東京圏・大阪圏の差は、 0.01であった。
 報告書では、個々の生活財について、地域その他による属性で保有率に顕著 な差があるものを報告している。たとえば、地域では冷凍冷蔵庫は大型・中型 ・小型ともに漁村の保有率が高く、大型は配偶者がフルタイムで働いている家 庭に、小型は三世代同居の家庭に多い。
 またボールを材質別にみると、ホーローとガラスは農村で、アルミは山梨県で 、プラスチックは漁村で保有率が高い。
 情報家電はおおむね東京圏・大阪圏で保有率が高いが、ワープロ、パソコン、 ファクシミリは保有率最低の地域でも、かなりの保有率を示しており、全国的 に情報化が進行していることを示している。

(2)生活財と家庭機能
 生活財の保有状況から家庭機能の地域比較をすると、管理機能のみ甲府市が 高く、他の10機能すべてにおいて、農村が高いことが明らかになった。逆に農 村は着衣・外出・家事・調理などの分野で他の地域と遜色はないが、趣味・接 客・管理・食事・団欒の分野で、他の地域より小さく、趣味の機能が特に小さ い。大阪圏・東京圏は家事・着衣・調理で小さく、両者の違いはほとんどみら れない。(図ー3)

(3)生活財と志向
 生活財の保有状況から生活スタイルの地域比較をすると、
 新しいものを取入れる「進取志向」は、農村と東京圏で高く漁村で低い。
 ストック保有などの「備蓄志向」は、甲府と農村で高く、漁村で低い。 「 再利用志向」は、甲府で高く、漁村で低い。
 「和風志向」は農漁村と甲府で高く、大都市圏で低い。(図ー4)

(4)まとめ
こうした事実から各地域の保有特性をまとめると表ー5のようになる。

2 購入意欲

 購入意欲の高かったものとその率をまとめると、つぎの表のようになる。全 体的に購入意欲の高いものは、 @身を飾るもの(衣料・外出用品)A消耗品(化粧品、トイレ用品、石鹸・シ ャンプー、洗剤など)。B非常時の備え・ストック(防犯・防災用品、医療用 品、雑貨のストック、電池、ビデオテープ等のストック、祝儀袋や仏事袋・便 箋・封筒などの事務用品)。 C豊かな生活の演出のためのインテリア用品(生花植木、観賞用植物、じゅう たん・カーペット、カーテン、テーブルクロス、ナフキンなど)。 D書籍。である。 あまり高価なものは並んでいない。  すでにもっていて「買い替え・買い増し」の意欲の高いのは、 女性衣料、外出用品、化粧品、医療用品、文具・事務用品、園芸・ペット用品 である。  いまは持っていなくて新規購入意欲の高いのは、家庭医学書、消火器、衛星 放送受信機能付きカラーテレビ、大型懐中電灯、コードレス電話などである。  地域別に購入意欲の高い生活財をまとめたのが、つぎの表である。衣料品が 大阪圏で多く甲府市で少ない、山梨県で樟脳の購入意欲が高い、福井県で化粧 品の、とくに漁村でヘヤケア化粧品の、購入意欲が高いなどの特徴が現われて いる。

3 使用頻度

 生活必需品、装飾品などの使用頻度は高いが、家庭用精米機、フッ素樹脂加 工フライパンもよく使われている。まったく使われていないものには、つぎの 表のようなものがある。

家庭景観の現状

1.玄関景観

図5 玄関景観のタイプ例

玄関景観を図のように5つのタイプにわけて見てみると、世代が上がるほど「構 え」のある床の間タイプが多く、シンプルで境界性の低い壁面無飾タイプが少 ない。  地域別にみると、床の間タイプは地方都市に、中間タイプと物置タイプは農 漁村に、壁面無飾タイプは東京圏に、壁面飾り棚有タイプは大阪圏・福井市に それぞれ比較的多くみられる。  げた箱上面には置物、花瓶、スプレーが、げた箱上部壁面には額入り書、壁 飾り、鏡が多く飾られていた。農村ではモノが多く飾られており、漁村では少 ない。

2.応接景観

図7 床の間の様相

 応接景観として特定できず、居間と兼用のものが3割ある。若い世代ほどそ れは多い。判別できるもののなかでは、和風と洋風の比率は3対1である。地 域別にみると洋風の割合が比較的多いのが山梨県である。

 和風の応接空間を持つ世帯のなかでは、床の間を持つものが8割以上ある。 その床の間の利用形態を4つのタイプにわけて地域別に見てみると、正式利用 タイプが比較的多く、物置タイプがないのが福井市、逆に正式利用タイプが少 なく、物置タイプが比較的多いが大阪圏である。

3.台所景観

図9 モノがあふれる台所

台所景観では、昔の台所にはなかったさまざまな道具が、さまざまの場所には みだして、全体としてゴタゴタした景観を呈している。システムキッチンが導 入されている家庭(2割弱、大阪圏と福井市でやや多い)ではモノがよく収納 されていて、比較的美しい。けれども台所の道具をすべて潔癖主義的に収納し なければならないかどうかは疑問がある。炊飯器、ポット、オーブントースタ ー、食器乾燥機は露出率が7割をこえている。

 冷蔵庫の上にがいちばん多く載っているモノは小中の箱で、地域的には農村 が多くそうしている。冷蔵庫の側面は大都市圏では家庭掲示板・情報ボードと して機能し農漁村では、タオルハンガー、ラップハンガーなど便利な器具をと りつける壁として機能している。

4.食事空間

図11 独立した食事室

食卓景観では椅子・テーブル式が4分の3を占めている。座卓が多いのは漁村 だけである。食卓から台所が「丸見え」、「見える」あわせて3分の2ある。 食卓からTVが見えるものは8割ある。食事と会話だけをゆっくり楽しむ食卓 空間が持たれていないといえる。

5.居間景観

図13 居間の様相

 居間景観を洋風・和風でわけてみると、東京圏は6割、大阪圏と福井市は4 割が洋風、甲府市と農漁村ではほとんどが和風であった。世代ではあまり変化 がない。居間に飾りものがたくさんあるのは山梨県、少ないのは福井県である 。書画は福井市で多く、漁村では少ない。若い世代ではポスター、写真、ぬい ぐるみ、タペストリーが多く、上の世代では器、トロフィー等が多い。世代が 上になるほど数が多い。たくさんのモノが雑然とあるのは、美意識に照らして 自覚的に飾られているというよりも、「露出したまま収納されている状態」で あると解釈できる。

 居間の飾りものの代表は全世帯の7割で飾られているカレンダーである。ほ とんどのカレンダーが貰ったもの(会社や商店名のはいったもの)であるが、 地域的には東京圏と福井市に、世代的には若い世代に、買ったカレンダーをか ざる家庭が少し存在する。甲府、農村、漁村では半数近くが、複数のカレンダ ーを居間に飾っている。地域とのつながりの強さのあかしでもある。

 居間のテレビの配置方法を見ると、斜め露出タイプが最も多く、約6割を占 める。居間の広い農漁村では、中央露出タイプも多く、約4割を占める。テレ ビの上に置かれているモノは置物と人形が多い。その平均個数は甲府市と農村 が多い。何も置かないモノ抑制的家庭の割合は、東京圏が3割と最も多い。海 外居住経験家庭ではそれが5割を超え、飾る場合の個数も少ない。

6.浴室景観

図15 浴室景観

 浴室には多種多様のシャンプー、リンス、タワシなどが存在し、既設の収納 棚1ヵ所では収納場所が足りず、床上や窓のさんなど複数の収納方法をとって いるので、かなりゴタゴタした景観になっている。

7.トイレ景観

図17 トイレの様相

 トイレの形態は、全体では洋式が多数を占めているが、漁村では和式のほう が多数をしめている。ウォッシュレットの導入率は全体の1割強と低いが、福 井市では3割弱の高さである。トイレにも収納場所が足りず、床面など複数の 収納方法がとられている。トイレ内に置物、絵画、本など居間同様の飾りもの がある家庭は全体として7割強である。東京圏と甲府市で多く、漁村で少ない 。若い世代では絵画が多く、上の世代では植物が多い。

8.脱面濯景観

図19 脱面濯の様相

 脱面濯、すなわち脱衣場、洗面所、洗濯場付近の空間の景観は、最もモノの 整理のつかない煩雑なものになっている。あふれるモノをカウントすると、タ オルと洗剤が多数を占める。洗剤箱は技術革新で小さくなったが、種類数が増 加し、結局あふれるようになった。

9.寝室景観

図21 寝室景観の様相

 寝室の形態は3割がベッド、7割が布団である。地域的には福井市、世代的 には20歳で比較的ベッドが多い。ベッド周辺を飾る割合は東京圏が多く、大 阪圏が少ない。飾っているモノの数は、甲府市が多く、大阪圏は少ない。20 代では夫婦の写真を飾る志向がある。

10.子供部屋景観

図23 ディズニーの「巣」となっている子供部屋

 子供部屋は子どもが大きいほど、専有の部屋を持ち、ベッドをもち、クーラ ーをもち、TVをもつ傾向がある。地域的にはベッドは農村で、クーラーとT Vは漁村で(共有もふくめて)保有率が高い。

 子供部屋景観を特徴づけるポスターに着目して内容をみると、最も多いのが アニメキャラクター、ついで絵画、ついで表彰状である。地域別にそれを見る と、東京圏は絵画、大阪圏と福井市は表彰状、甲府市はスポーツ関連のポスタ ーが多い。

 子供部屋景観でめだつのはディズニーグッズである。4割強の部屋に、平均 3個弱それがある。地域的には東京圏、甲府市、福井市で高い。個数が多いの は福井である。東京ディズニーランドとの距離とは関係がないようである。

11.収納景観

 物干しざおが室内の鴨居やなげしに斜めにかけてつかわれていた。出現率は 最も多い漁村で3割弱、関西・農漁村で高く、東京・甲府で低い。洗濯物を干 すという以外に、収納用、あるいは露出保管用にもつかわれている。

 ブティックなどの商品展示用のクローゼットハンガーの収納具としての使用 もめだつ。出現率は最も多い福井市で4割強、つづいて東京圏、漁村でも高か った。世代的には若い人のいる家庭ほど多くみられる。

 本来運送用の段ボール箱が8割弱の家庭で室内に露出し、保存・収納具とし てつかわれている。地域別に出現率とをみると、甲府市で9割強、農村で9割 弱、最も少ないのは福井市で7割弱である。平均個数は大阪圏が最も少なく4 個強、漁村が最も多く7個弱である。色や形の違う段ボール箱がおかれている と家庭景観が雑然と見えるので、同じものを並べ揃えている家庭もある。

 床から天井まである作りつけの収納壁の家庭があり、景観をすっきりみせて いた。

12.宗教空間

 神棚と仏壇の保有率は、仏壇のほうがやや高い(とくに福井市でその差が大 きい)が、ともにのべ床面積が大きいほど保有率が高い。地域的には漁村で最 も高く、農村と甲府市がそれにつぎ、大都市とくに東京圏が最も低い。

 神棚は9割弱なげしに置かれているが、冷蔵庫やタンスの上に設置されてい るものもある。

 仏壇はつくりつけのものが、漁村で多く、農村で少ない。

13. 各地域の特徴

(1) 東京圏
 東京圏の家庭景観の特徴は狭いこと、それゆえ収納やインテリアに工夫をし ていることがあげられる。若い世代と上の世代で、ものを制御して、スッキリ とした都会らしいしつらえで暮らしている家庭がいくつかみられる。

(2)大阪圏
 大阪圏の家庭景観の特徴は住宅事情が東京よりよく、生活財が少ないので、 あまりもので溢れてるという感じがしないこと、玄関・応接で「構え」があま りないこと子ども部屋が優遇され重装備であることである。

(3) 甲府市
 甲府市の家庭景観には地方都市の特徴に加えて農村と大都市の両方の顔がみ える。玄関を「構え」重視の床の間スタイルにするのは地方都市性、居間が和 風であることやカレンダーの飾り方などは農村性である。しかし子供部屋を与 える率が農村とは逆に最も高く、都市的側面ももっている。

(4) 農村
 農村の家庭景観の特徴は住宅は広いが、そこに収納システムが整わないまま 、モノが多いこと、そのために室内物干し竿や段ボール箱が使われていること である。また神棚、仏壇、命名書、カレンダー等伝統や地域との繋がりの重視 も特徴である。

(5) 福井市
 福井市の家庭景観には地方都市的性格と都会的性格、大阪圏との類似性など が見られる。床の間タイプの玄関は地方都市の特徴である。神棚の衰退、ベッ ドやウォッシュレット、市販のカレンダーや絵画を飾ることなどは都会的性格 である。子供部屋の優遇・重装備は大阪的である。

(6) 漁村
 漁村の家庭景観はモノが少なく、飾りたてない、欄間や仏壇、神棚を大事に するなど他の5地域にくらべてたいへん特徴的である。

第3章 10年前との比較

生活財保有の変化

 1982年の東京圏・大阪圏の調査家庭の生活財の保有率と、1992年の 調査家庭のうち東京圏 大阪圏の生活財の保有率を比べてみた。この10年間で 広く普及したものはボタン式電話とビデオデッキで、ともに75%以上の増加を みせている。  ほとんどの分野で増加の傾向にあり、なかでも調理用小道具や食器など「食 」に関する生活財や食料品、文具・事務用品、スポーツ用品、カー用品の分野 で多くの生活財が増えている。

 生活財の増減の原因をまとめると、 @新しい商品に代替されたもの、 A流行が作用しているもの、 B新機能の便利な商品の低価格化による増加、 C生活の質の向上や生活スタイルの変化が作用しているもの、 D新しい価値観や志向性が作用しているものの5つにまとめることができる。 生活財の増減例は次の表の通りである。

家庭景観の変化

1 各空間と見えるモノの変化

【玄関】  玄関のげた箱の上には、鉢植と水槽が減り、生け花、アートフラワー、スプ レーが生きものを育てる縁側的意識が減り、増加した。接客意識が増加したと いえるが、案外それに反するもの(スブレー)も同居するようになったわけで ある。げた箱の上部壁面には、ものをあまり飾らなくなった。

【台所】  台所景観の大きな変化は冷蔵庫の大型化がいっそうすすんだことである。そ の影響で上にオーブントースター、炊飯器、オーブンレンジなどがあまり載ら なくなり、箱が載るようになった。壁面にはメモ・磁石が多くの家庭で付けら れるようになった。冷蔵庫壁面の家庭掲示板化である。レンジフード、レンジ ファンそして食器乾燥器の普及も台所の景観を変えた。

【居間】  居間のテレビを隅から斜め置きする率が増加した。狭いなかでの大型化、ワ イド化多チャネンネル化などが直接の原因であろうが、相変わらずテレビに家 族収斂機能が期待されていることもうかがえる。テレビの上に飾るものは半減 した。薄型になって、人形が載らなくなり、小さい置物程度になった。  居間の飾りものは相変わらず多い。一方で家族写真、絵画、置時計、ポスタ ーが増加したが、他方では温・湿度計、日本人形、吊り下げ人形、フランス人 形、ぬいぐるみは減少した。居間から人形類が減少したことは、居間景観を「子 どもの植民地」の状態から、やや成熟したものに変化させた、といえる。

【子供部屋】  子供部屋のアイドルのポスターは少なくなり、人気アニメのキャラクターが 増加した。成人に近い子どもの部屋ではスポーツカーやバイク、スポーツのポ スターが多いようである。

【脱面濯】  洗濯機周辺では以前ケバケバしく巨大な洗剤箱が露出していたのが、技術革 新によって小さく小さくなり、収納されるようになった。しかし、洗剤なのど の種類が増え、あいかわらず家のなかでいちばんモノの氾濫の激しい空間とな っている。

(6) 屋内全体の印象  屋内の照明具は以前より多少はお金をかけ、良いものに変化してきた。しかし 、部分照明より全体照明が、電灯よりも蛍光灯が主流をしめていること、照明 具からスイッチの紐がさがっていることなど、以前と同様、欧米とは異なる日 本的特徴を示している。  全体として生活財が増加し、収納具としてダンボール箱、クローゼットハン ガー、物干し竿が屋内に増加し、活躍するようになった。

2.調査家庭の変化

 10年間の家庭環境の変化を3つのタイプに分けそれぞれの家庭景観の変容を みてみる。

(1) 「子どもが巣立ちつつある家庭」では、同居家族数が減少しているので、モ ノの圧力は減っているが、家庭景観が新しい秩序で再構築されるには至らず、 モノに対する抑制力が後退し、美意識が弛緩している印象がある。

(2) 「家が広くなった家庭」の家庭景観の変化は表にまとめた通りだが、これは 住宅をどの程度拡大したときに、それによって何を実現したいと人々がかんが えているかを、よく表している。

(3) 「以前と同じ家に住み続けている家庭」では、同じ空間にモノが増加してい るので、モノが溢れたような状態になっており、収納のためにあらゆる空間を 有効利用しており、バイタリティーを感じさせる景観となっている。

第4章 農村・漁村の生活財と家庭景観

山梨県北巨摩の生活財と家庭景観

 北巨摩では稲作とならんで明治の半ばから養蚕が中核的産業であったため、 母屋に蚕室をかかえ、住宅も広かった。しかし、昭和47年をピークに養蚕業は 衰退し、そのころから個室化、洋風化など新しい生活に対応して住宅も改造を うけるが、家族人数も減少し、広い住宅をもてあますようになった。そして現 在では余った空間に都会に出ていった次世代家族の生活財をあずかるトランク ルームとなっており、いわば「収納のドーナツ化現象」ともいうべき状況を呈 している。下の図は典型的な家庭の間取りとその使い方の変化を表している。 とくに昭和38年にドマをなくして風呂やトイレに行きやすくし、南側の蚕室だ ったへやをオカッテ、イマにしたこと、そして今日では中心部分以外は収納空 間になっていることがわかる。

 家庭景観の特徴としては、壁に表彰状や先祖の写真、カレンダー等をたくさ ん貼ることがある。同じ壁にカレンダーをいくつも貼ることも多い。子どもの 生まれた家からもらった「命名書」を貼るのもこのあたりの特徴的な習慣であ る。追憶(メモリアル)志向が強いともいえるし、くれた人たちとの人間関係 を尊重しているともいえる。

 生活財の総点数が多く、今回調査した6地域で最高である。収納場所に困ら ないという条件もあるが、めったに使わないものでも自分で所有しなければ気 がすまない心理もあるようである。

 神棚、仏壇の所有率も高い。屋敷の鬼門にはイワイジンのほこらがあり、台 所には秋葉神社のオフダが貼られている。

福井県下の漁村の生活財と家庭景観

 福井県下の漁業は越前(嶺北)では沖合漁業中心、若狭(嶺南)では養殖・ 沿岸漁業中心である。経営の規模、収入などで違いがある。  住宅はすべて戸建てで、農村ほどではないが相当広い。空間的に余裕はある 。住宅のステイタス・シンボルは欄間、床の間であるが、若い世代の家庭では 床の間らしく使っていない例も多い。正式の接客はザシキ で、日常的な接客はオマで、行なわれる。仏壇はザシキかオマに、神棚はオマ に設けられている。オフダは台所、玄関、トイレなど住居内に点在する。床の 間は単なる観賞用にとどまらず、宗教的にも用いられ、「金刀比羅大神」の掛 け軸、お飾り、御神酒、カケコダイを供えることもある。生業とそれに基づく 民間信仰が家庭景観に投影されている。
 生業財は日常生活の場にはもちこまれないので、住居内は一見した限りでは 漁家を感じさせない。生業財は図のような舟小屋を改造した倉庫 や、住居の床下などに収納される。
 生活財の総点数は少なく、今回調査した6地域で最少である。漁家であるこ とから魚を自家で調理することも多く、木のまな板、うろこけずり、魚用金串 やわさびなどの生活財は他の地域より多い。特徴的な生活財としては、女の厄 年に実家が赤飯を盛って贈る塗りの一斗ヒツ「アカヒツ」や船上用木製弁当ヒ ツ「メンコ」があるが、若い世代の家庭では工業製品に取って代えられ消滅の 傾向にある。
 地域の生活慣行として、嫁入り道 具は「イショウミセ」といって披露されるため、使わないものでも世間体を配 慮して持参され、死蔵されることも多い。また「マゴワタシ」といって第一子 が成人するまで嫁の実家が成長段階の節目に贈り物する慣行もある。

第5章 「豊かな生活」への再構築

 私たちがこの調査をはじめた1975年、家庭にはモノが氾濫している、こ れ以上家庭にモノは入らないと考えた。しかし、実際には、家庭にモノがふえ 続けた。それはメーカーが魅力のある新商品を開発し「豊かな生活」とはそれ をもつことだというイメージを生活者に持たせることに成功したからである。 いま消費は冷え込んでいるが、生活向上の意欲を失ったわけではない。次に求 めるべき「豊かな生活」がどのようなものかを考え、それに貢献するような商 品を開発し、提供することが求められている。

都会と田舎

 「豊かな生活」をリードするのは都会であり、田舎はそれについてくる、と いうのが従来のメーカーと流通の考え方であった。保有率が、大都市>地方都 市>農漁村と、都市化に相関するようなパターンを描く生活財もたしかにある 。しかし、狭くて高い住宅に苦しんでいるのは大都市だけで、地方都市も農漁 村も大都市より豊かな住生活をおくっている。住宅ばかりではない。全体とし て最もモノ持ちで、新しいものも多く取り入れ「普通の意味で豊かに」暮して いるのは農村である。逆に伝統的なものを大事にし、「多くを持たないことの 豊かさ」を保っているのは漁村である。また、プラスチックや化学調味料を「 あえて持たないことの豊かさ」や自然素材や質の良い工芸品を「こだわって持 つことの豊かさ」を味わっているのは地方都市である。地方都市、農漁村のラ イフスタイルを見直して、その中に「豊かな生活」のイメージを求めたほうが 良いかもしれない。

 大都市で生活をはじめた若い夫婦や、長年大都市で生活してきて都市に適応 した生活を確立した年配の夫婦の一部には、地方都市・農漁村とは違った、狭 い空間を簡素に、しかも美しく暮らす新しいスタイルを実現し、都市的な生活 美学の確立を予感させる家庭があった。そういうことが可能であることを、住 宅供給にあたっている公共機関などが、その見本と共に、同じような条件で暮 らしている人たちにもっと広く知らせる必要がある。

家庭と家族

 各企業のいわゆる時短の努力と、長びく不況の結果、夫の残業が減って家に 早く帰るようになり、節約のため外食をひかえて家庭で家族が一緒に過ごす時 間が多くなった。遠心分離しかけていた家庭にこのような求心力が働いたのは 、一応結構なことだといえる。景気が回復しても、回復した求心力を再び失わ ないようにした方が、きっと以前よりより豊かな生活をおくれるであろう。子 どもたちが団欒の場にいないのは塾通いとクラブ活動のせいである。

 家庭とりわけ大都市の家庭に関してもうひとつ見直すべきことは、家庭が、 あまりに核家族だけの孤立した城になっていることである。「もてなし」を忘 れた、外来者一切立入禁止のプライバシー空間となってしまった結果、家庭の 中にパブリックの観念がなくなり、家庭景観からも、家族の行動からも、「し つらい」「ふるまい」を気にする生活美学がなくなってしまったのである。「 豊かな生活」のためにはまず招客によって家庭の中にパブリックの観念を回復 し、家庭景観と家族行動に生活美学を回復する必要がある。

住宅

 住宅についての観念も見直さなければならない。住宅は財産であるよりも前 に家族が生活するための器である。子どもたちの成長、巣立ちなど家族のライ フステージに対応して気楽に近所で住み変えができるようなシステム、あるい は不足する部屋を近所に借りられるようなシステムの創出を期待したい。個人 には子供たちが巣立ったあと、いかに美しく豊かな生活を再構築するかについ てのイメージを早くから持つことを期待したい。

 以前の調査で私たちは、家の中に露出しているモノを、色やデザインでコー ディネーションすることを提案してきた。しかし「豊かな生活」への再構築の ためには、モノを所有すべきかどうか、家の中に保有すべきかどうかの再考を 生活者に訴えることが必要である、と思い至った。
 諸外国の人たちは常に自分で住宅を修理し、ペンキを塗り、壁紙をはりかえ 、カーテンをかけかえる。メンテナンスによって常時美しさを保っているので ある。家の模様がえを意識的に行い、住宅を美しく保つ熱意を私たち日本人も もう少し持つべきである。

台所と食事室

 「豊かな生活」への再構築を考えるとき、今、住宅の中で最も問題にすべき は、台所と食事室のあり方である。台所は機能空間に徹して働きやすく道具を 扱いやすい空間に、食事室は情緒空間として人々がゆったりとくつろぎながら 食事のできる空間へと発展をとげるべきで、完全収納のシステムキッチンより も、家族で年中行事を楽しんだり、客を招いて食事のできる正餐室が是非必要 である。ここで提案している正餐室は、農村や漁村では「座敷」としてもとも と持って活用しているものである。問題はそれを持たない都市の住宅にある。 都市においても正餐室は洋式である必要はなく、むしろ「座敷」の方が転用が きいて良いかもしれない。

 食事とテレビについても関係の再構築が必要である。かなりの割合の家庭で 、食事しながらテレビが見えるようになっている。家族がバラバラに、とりあ えずの食事をする現在のDKには、時計がわりに観るための、あるいは孤食の 淋しさを紛らすための、テレビがあってもよい。しかし今後新たに持とうとす る正餐室には、テレビはない方がよい。あってもBGV(環境映像)を映して おく程度にすべきである。みんながテレビを見ながら黙々と食事する環境では 、豊かな食事文化すなわち気のきいた小咄を語る能力や食事のマナーも躾も育 たない。

家庭景観

 1975年の調査以来、私たちは現代日本の家庭景観はモノが制御できてい ない、小児的でアナーキーな状況にあると見てきた。それは日本特有の現象で はなく、急激な経済成長と生活水準の向上をとげる時期に現われる文明現象で もあるようである。じつはその傾向は現在も変わらない。一部に例外はあるが 、モノの氾濫の度がいっそう激しくなっていることが明らかになった。  かつてこの調査研究シリーズの「生活財の処分と再流通」で提案したことで あるが、生活財の整理・処分を容易にするフリーマーケットやリサイクルのシ ステムを各地域に重層的に構築するべきである。

 かつて私たちは、家庭景観の混乱の責任の一端を、炊飯器やポットなどのメ ーカーに求め、製品に花柄デザインや店頭で目立つための激しい色づかいを批 判した。今日それらの製品のデザインはきわめて洗練されてきて、花柄や原色 は鳴りをひそめている。今日のモノの氾濫の責任はむしろ生活者の側にある、 と言って良い。現在「露出保管」しているモノを思いっきり切り捨てて、絞り 込み「簡素の美」を演出するのもかまわないし、何らかのテーマ、あるいは色 や形で統一をはかってにぎやかに「飾り立ての美」を演出するのもかまわない。

再構築への提案

第一に今後の生活財に関して、家庭景観整備をサポートする生活財として、収 納ボックスの規格化・家具化を提案しておきたい。従来からあるカラーボック スは安価であるが低品質である。逆にシステム・ファニチュアは高品質である が高価である。手頃に買える扉つきの収納ボックスがないのが現状である。  家庭景観の中でダンボール箱が収納具として利用されている事例が随分目立 った。そのダンボールの周囲を包んでしまう規格化された無地のビニールシー トを開発・販売することも提案しておきたい。

 第二にモジュール、色調の統一を提案したい。家具家電などが、会社によっ て少しずつサイズが違うのも選択の幅があって良いように見えるが実際は不便 である。業界で家具家電のモジュールの統一がそろそろはかられても良いので はなかろうか。
 色調の統一も同様である。メーカーによって、年度によって次々と異なる色 の家具家電が出てくるのも、やはり、家庭景観を整えるのには邪魔になる。と くに大型家電はオブジェ(図)から背景(地)に変身してほしい。色はちがっ ていても色調が統一されていて並べてみると何となく調和する、というような 工夫が、これも関係するメーカーの話合いによって何とかできないものであろ うか。

 第三に望まれるのは、成熟商品の定番化である。これ以上あまり進化しない という成熟商品は、馬鹿げた差異化と目先をかえるだけの努力のかわりに、機 能と美を兼ね備え、近代美術館に収蔵されるほどの完成デザインを追求して、 それを定番化し、10年先、20年先も同じものが手に入るようにしてほしい。食 器などの場合、それをオープンストックにして、10年先、20年先に1点でも補 完がきくようにし、それを宣言しておいてほしいものである。

 第四は、和洋折衷の生活空間にあったすぐれた和洋折衷生活財の開発である 。都会生活者のうちの海外生活経験者や漁村の人たちには、和風生活財への強 い欲求がある。農漁村の居間などには、和洋の不整合がたくさん見いだされる 。その意味で、すぐれた和洋折衷生活財は、まだ未開発のフロンティアである 。便利で快適で美しい、新しい日本式ライフスタイルの創造のための活発な提 案と開発を期待したい。先行事例として「卓上膳」、「手巻ずしセット」を挙 げておきたい。こうした豊かな生活への積極的な提案をメーカーに期待したい し、そういうものが開発されたときに、それを評価しその情報を普及すること を、流通やメディア産業には期待したい。

謝辞

資料のご案内

初出:Two Way 1994.3月 生活研究号 ISSN 0913-6444


株式会社シィー・ディー・アイ  http://www.cdij.org/pf/skz3.html (2004/04/22-)