嗜好品文化研究会

嗜好品文化への招待
【2-5】現代日本人の「嗜好品」イメージを探る


 では、そんな嗜好品をめぐる、いまどきの日本での状況は一体、どうなっているのでしょうか。少し古くなりますが、2001(平成13)年に私たちは年齢や性別の異なる人々のグループインタビューやアンケート調査などを実施しました。


 それで、最初に20歳前後の女子大生たちの話を聞いてみることにしました。おそらく彼女らの間では「嗜好品」という言葉が死語となっているだろうと思われます。そこで「タバコや酒、コーヒーや茶・紅茶に似ているもの」をあげてもらうことから始めました。
 すると、出てくるわ出てくるわ......「音楽」「化粧品」「ガム」から「アクセサリー」「雑誌」「ジグソーパズル」、そして「テレビ」「ケータイ(携帯電話)」「インターネット」、さらには「香水」「アロマグッズ」「キャラクターグッズ」など、おびただしい種類のアイテムが列挙されました。
 むろん、その多くは「嗜好品」の「既存の定義」からは逸脱しています。でも、みな「生存に不可欠でない」「個人の好き嫌い=嗜好を反映する」「ないと寂しい」「心身に好ましい効果をもたらす」「人との出会いを円滑にする」など、いわゆる「嗜好品」の属性を強く帯びてもいるのです。そこで私たちは、これらを「拡張された嗜好品世界」の見取図なのかもしれないと考えることにしました。


 このグループインタビューの結果から、いわば「嗜好品の仲間」を40品目に整理し、大量アンケート調査を試みました。このアンケート調査では「毎日のように楽しんでいるもの(=楽しみ財)」と「嗜好品だと思うもの(=嗜好品)」を列挙してもらうことにしました。(この結果は、次回のエッセーで紹介します。)
 ついで、嗜好品に関係のありそうな31項目の記述を提示し、そのなかから「嗜好品のイメージ」に合致するものを選んでもらいました。その結果を示したのが図1です。


      図1 「嗜好品」のイメージ

図1

 では、このグラフから一体、どんなことが言えるでしょうか。その要点を整理すると、つぎのようなことが言えそうです。
 まず「嗜好品」は、なによりも「気分転換に役立つもの」だと考えられているようです。とはいえ、その比率は50%以下に過ぎません。つまり「嗜好品のイメージ」には、確固として安定した共通性が存在しないと言わざるを得ません。
 これに続けて「味覚・嗅覚に関係する」「自分を癒してくれる」「気分を落ち着けてくれる」「ストレス発散に役立つ」「自分なりのこだわりがある」......などの記述が続きます。嗜好品は、きわめて多義的な捉えられ方をしているというほかなさそうです。
 しかも、「気分を落ち着けてくれる」と同時に「気分を高揚させてくれる」。「コミュニケーションに役立つ」と同時に「自分自身に浸れる」。「身体にとって良い」と捉えられているかと思うと「身体にとって悪い」とも考えられています。こうしてみると、それは「両義的=プラスとマイナスの価値を合わせて持っている」ということになるでしょう。


 このように嗜好品は多義的で、しかも両義的......その働きやイメージを、単純に捉えることができない点に、嗜好品文化研究のダイナミックな面白さが隠されているのです。

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